飼い主さんの乱読日記

趣味、勉強のために読んだ本の感想とも言えないものを書き連ねています

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(日本経済編)」

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(日本経済編)」

細野真宏 小学館

 

私はITエンジニアでありますが、仕事で金融系の知識が必要となったことをきっかけに、金融の勉強を始めました。しかし、金融をきちんと理解するには、やはり経済一般の知識が必要であろうと思い、初心者向けに評判のよいこの本を購入してみました。この本は2003年発行のため、それ以降の情報については記載されていませんが、まあ購入したのが○ックオフで安かったし、まずはこの本で基本を学ぼうということでよしとします。

 

この本では、バブル経済から、その崩壊を経て、はまり込んでしまったデフレ状態から脱却するための悪戦苦闘に関するニュースをきちんと理解することを目的としています。2018年現在、デフレからの完全な脱却ができていないことを踏まえると、この本の存在意義はいまだ失われていません。また紀伊国屋経済書の棚にも並んでいたので、本のプロの方々からも十分商品価値があると判断されているのでしょう。

 

この本のすばらしい点としては、普通ニュースや新聞では、「こうだ。」と一言で説明してしまうことについて、一歩一歩段階を追って説明してくれるため、「わかったような、わからないような」で終わらず、読者がきちんと理解できるということでしょう。これは大学受験予備校で数学のカリスマ講師だったという著者の経験がいかんなく発揮されているのでしょう。言い換えると、著者がロジックをしっかり教えてくれるということ。これにより、「なぜそうなるのか?」というところがしっかり理解でき、読者はストンと腹に落ちた感覚を味わうことができます。

 

わかりやすい説明についての具体例としては、私は、バブル経済崩壊後に行われた「貸し渋り」や「貸しはがし」、および銀行への「資金注入」というものがよくわからなかったのですが、この説明がわかりやすい。「BIS規制」というものがあって、これは「国際決済銀行」というところが定めていて、銀行が外国で仕事を行う場合には、自己資本比率が8%以上でなければならないというものです(日本の大手銀行はすべて外国で業務を行っています)。これを求める式は、「自己資本比率自己資本/総資本」で表されます。「自己資本」とは、自身の株発行で得た資本や、保有している株式が値上がりすることによって得た利益などが該当します。また、「総資本」とは、の金融機関から借りたり、預金者から預かったりしたお金、つまり他人から借りたお金を表します。「貸し渋り」や「貸しはがし」が行われた理由ですが、基本的に大きな増減をしない自己資本に対して、他人から借りている資本を表す総資本が増加してしまうことから説明されます。自己資本比率の式を参照すると、ほぼ不変と仮定できる自己資本に対して、分母にあたる総資本が増えてしまうと、自己資本比率が下がってしまい、外国で営業ができなくなってしまいます。そして総資本に含まれるものとしては、リスクを伴う「貸出し」は含まれるのに対して、安全資産である「現金」、および「国債」は含まれないとのことです。そのようなルールである理由は述べられていませんが、このルールがあるのなら、銀行としては「貸出」を行わず、「国債」や「現金」として保有しておくことは、合理的な判断と言えます。

 

また、国が行った資金注入に関しては、国が銀行によって発行された株式を購入することによって行われるため、銀行の自己資本(先の式の分子)を増大させる効果があるため、BIS規制をクリアしながら銀行が企業等へ貸出を行うことを可能とする政策であったことがわかります。当時、私は、銀行業界だけは損害が発生しても損失補填してもらえるなんて不公平じゃないかと思っていたのですが、その考えがいかに稚拙だったのか思い知らされます。

 

また、「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」の違いもわかりました。「ゼロ金利政策」とは、短期金融市場(金融機関同士で、お金を融通しあう市場で、現在では金融機関でお金が必要な場合には、日銀から借りるよりもこちらを利用して資金を調達することが主なようです。)で、お金の貸し借りをする金利が0%となるよう日銀が調整する政策のことです。その際、日銀の目標は金利が0%にするということです。それに対して、「量的緩和政策」とは、日銀が20兆円を市場に投入すると決めたら、たとえ10兆円投入時点で金利が0%になったとしても20兆円まで市場にお金を投入し続けるというものだそうです。言ってみれば、「量的緩和政策」は、「ゼロ金利政策」を過激にしたもの、市場のお金をジャブジャブにすることで、社会でまわるお金を増やしていこうとする(景気をよくする)というもののようです。

 

次に本書の不満点を一つ。短期金融市場で日銀がお金を供給する仕組みが説明されていません。日銀が短期金融市場の当事者となって、直接資金を必要としている金融機関に対してお金を貸し出すのでしょうか?日銀が金融機関に対して貸し出しを行う場合、公定歩合で貸し出すという別の仕組みがありますが、それとの関係はどうなってしまうの?という疑問があります。しかし、これ以外の記述はとてもわかりやすく、おすすめできる本だと思います。

 

最後に、著者についてコメントさせていただきます。著者の細野さんは数学の専門家で、大学在学中から大学受験予備校で数学を教えていた経歴の方だそうです。また、わかりやすい教え方が評判で、自身で数学専門の予備校を主催していたこともあるくらいで(今はやめられたようです)、わかりやすく教えることに関しては、プロフェッショナルな方と言えます。

 

この本はニュースを理解できるようになる本とありますが、私はこのシリーズの本を読み終わった後、経済学の教科書を読んで経済の知識を深めたいと思っています。