飼い主さんの乱読日記

趣味、勉強のために読んだ本の感想とも言えないものを書き連ねています

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(世界経済編)」

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(世界経済編)」

細野真宏 小学館

 

【日本経済編】に続いての2冊目です。

著者が当初から書きたかったのが、この【世界経済編】の内容で、この本を理解するための準備として【日本経済編】を書いたという言葉に偽りなく、とても素晴らしい内容でした。

 

著者の言いたいことは、大雑把に言えば次の通り。

  1. 現在では、「実物経済」と「マネー経済」の比率が「1:9」となっており、世界のお金の流れの9割以上が「マネー経済」になってしまっている。よって世界で起こっている経済事象を理解するには「マネー経済」を理解することが不可欠である。
  2. 我々は、日本のニュースだけを気にしていたらダメ。世界の経済は本当に深くつながっているので、世界経済のニュースがそのまま僕たちの日常に大きく関係してくる。

 

まずは、マネー経済を理解するため、イギリスをネタに「ヘッジファンドとポンド危機」の章がおかれます。当時、不況でありながらインフレに悩まされていたイギリスがEMS(欧州通貨制度)に参加するため、イギリス経済の実態よりも高いポンドのレートでマルクと関連つけられていました。この状態は長くは維持でいないと判断したヘッジファンドは、ポンドの空売りを行うことでポンドの暴落を引き起こし、中心人物であったジョージ・ソロスは、この間に1200億円もの大金を儲けたといわれています。

 

次に、イギリスの事例を踏まえたうえで、「アジア通貨危機」に関して、主にタイに関して説明されます。90年代後半、アジア諸国はドルペッグ制(ドルとの固定相場)をとっていましたが、アメリカの「強いドル」政策の影響から、各国の実体経済より通貨の価値が高い状態となってしまっていました。そこをヘッジファンドに狙われ、イギリスの場合と同様、空売りを仕掛けられ、結果、変動相場制へ移行せざるを得なくなり、通貨価値が暴落してしまいました。

 

次に、「アジア通貨危機」から派生した「ロシア危機」について説明がなされ、それまで無敵を誇った「ヘッジファンドの危機」が描写されます。これまでの流れでは、デフォルト(債務不履行)が起きそうな国に対してはIMF国際通貨基金)が必ず融資を行いデフォルトの発生を回避していたことに加え、ロシアは核保有国であるため絶対にデフォルトには陥らないと信じられていました。しかし、ロシアへのIMFの融資はヘッジファンドを儲けさせるだけだとの批判から、IMFの融資が行えず、「アジア通貨危機」により、パニックに陥った投資家が「新興市場国」から資金を引き揚げる流れと合わさって、とうとう、ありえないはずのロシアのデフォルトが発生してしまいます。ここに至って、不敗神話のあったヘッジファンド(世界最大のヘッジファンドであるLTCMも)の破綻が起こります。

 

ここでLTCMの破綻をそのままにしておいては、アメリカ発の世界恐慌が発生してしまうため、アメリカの中央銀行は「緊急的で思い切った行動」をとることで、それを抑えます。日本で行われた銀行への「資本注入」や「ゼロ金利政策」もこの流れの中で行われたそうで、世界の経済事情が自分たちの社会へ影響していたそうです。当時はまったくこのような事情が理解できておらず、なんて呑気に過ごしていたろうと鳥肌がたちます。

 

それから「アジア通貨危機」、「ロシア危機」から派生して「ブラジルの危機」が発生します。ドルペッグ制をとっていたブラジル・レアルの通貨切り下げが行われ、その結果、同じくドルペッグ制をとっていたアルゼンチン・ペソの危機が発生し、アルゼンチンのデフォルトが発生してしまいます。このように、世界のどこかで起こった経済危機が、その周辺の国々へ波及してしまいます。

 

これらの流れは、「マネー経済」の働きによるもので、世界のある地域に発生した経済事情が他の国や地域へ大きな影響をあたえてしまうことについて、一歩一歩丁寧に説明がなされています。このような不安定な世界に生きざるをえない我々としては、自分の身を守るためにも経済に関する知識は必要不可欠なものであるのでしょう。(知識があってもどうにもならないことも多そうですが。)現在を知るために、まずはこのシリーズを読み進めることは無駄ではないと思われます。

 

なお、この本を書いた段階では、【日本の財政問題アメリカ・ヨーロッパ・中国経済編】を書くことを想定していたようですが、2018年現在、未だ出版されていないようです。