飼い主さんの乱読日記

趣味、勉強のために読んだ本の感想とも言えないものを書き連ねています

「金融入門[新盤]」

「金融入門[新盤]」

岩田規久男 岩波新書

 

金融の基礎について学びたいと思い、本書を読んでみました。いい意味でも、悪い意味でも教科書のような本です。しかし、必要なことは簡潔に伝えてくれる、面白みは少ないけれど要点は理解しやすい大学の授業…、そんな感じの本です。金融の仕組みと用語の説明が中心の内容となっていて、理論的なことについては軽くふれる程度となっています。また、この本では、国内金融の説明が中心となっており、為替等に関する海外部門を含めた内容については、同じ著者による、「国際金融入門[新盤]」を参照することとなります。

 

以上のことから、想定する読者層としては、金融の初心者で、コンパクトな本であることから、多忙で金融についての知識を短時間で得たいという方に向いているのではないかと思います。

 

著者は、「2013年3月20日日本銀行副総裁に就任。2018年3月19日、日本銀行副総裁を退任。」という学者としてだけではなく、実務にも携わってこられた方です。そのため、本書の中で述べられている日銀に対する批判に関して、後日実務に生かされていたのだろうと思います。ただ、著者の在任期間中、デフレの脱却はできなかったことを考えると、実務で結果をだすということは、なかなか難しいことなのだと思います。また著者の立場としては、規制緩和を重視する自由主義的側面が強い方だと思います。

 

また、著者の立場がよく表れているのは、「第7章.金融ビックバンと金融システムの安定性」の章でしょう。著者は、金融ビックバンにより、金融の自由化が進むことに大きな期待を寄せています。実際、ネット証券会社などができ、証券売買の手数料が自由化されたことにより、メリットを受けている方も多いのではないかと思います。このように、規制が撤廃されることにより、消費者の選択肢が増えることは、我々一般の消費者にとっても望ましいことです。

 

そして、「第9章.金融政策とマクロ経済」では、金融の理論的な面が説明されます。ここではロジカルに金融事象の説明が行われます。(金融・経済事象は、論理的に考えることが必要であることが、ここを読むと実感できます。)そこで感じるのは、細野真宏さん(以前のブログを参照)の説明は本当にわかりやすいなあ、ということ。すべての本があのレベルで説明してもらえたらありがたいのですが、なかなか、それもかないません。我々読者が、細野さんの説明レベルで理解するスキルを身に着けなくてはならないのでしょう。

 

また一方、著者は金融自由化により発生した「資産担保証券」(銀行による貸し付け債権の証券化)等に対して、「銀行の資産変換機能の高度化」と高く評価しています。この「銀行による貸し付け債権の証券化」とは、2008年のサブプライム・ローンの仕組みそのものだと思います。サブプライム・ローンについて説明すると、プライム層(住宅ローンを問題なく返済できる層)の住宅ローンはリスクが低いため銀行が保有していたのだけれども、サブプライム層(ローンが返済されないリスクがある層)の住宅ローンに関しては、証券化を行うことによって、銀行から証券会社へ売却され(その後、機関投資家や一般投資家へ売却)、その証券価格が暴落し、世界同時不況へのキッカケとなってしまします。1999年発行の本書で、ナイーブともとれる自由主義的礼賛を行ったのは、ある意味仕方がなかったのかとも思います。

 

以下、参考までに目次を掲載します。

【目次】

  1. 貨幣と日本の決済システム
  2. 貨幣の貸借と金融
  3. 金融機関と金融仲介
  4. 資金の循環と金融市場
  5. 金利と資産の価格
  6. デリバティブとリスクの移転
  7. 金融ビックバンと金融システムの安定性
  8. 金融と景気と物価
  9. 金融政策とマクロ経済