飼い主さんの乱読日記

趣味、勉強のために読んだ本の感想とも言えないものを書き連ねています

「経済は世界史から学べ」

「経済は世界史から学べ」

茂木誠 ダイヤモンド社

 

本書は、①現在話題になっている経済の問題(例えば、TTPやデフレなど)について、歴史から学ぼう!ないしは、②世界史(日本史も含む)にでてくる経済関連の事柄をまとめて説明し、歴史の理解を深める、ということを目的とした本だと思います。「はじめに」に書かれているように、「本書は、経済をより深く理解するために、歴史、つまり「物事の成り立ちから学ぶ」というアプローチをとったものです。」とも言うことができます。ただ、軽く読み通せる本ですので、この本で興味をもった事柄について、さらに次の本を読んでいくための出発点として使えれば、有意義なのではないでしょうか。

 

以下、いくつか具体例をあげながら、本書の紹介をしていきます。

 

世界史をやっていた方はご存知のナポレオンと彼が起こした戦争に関してです(ベートーヴェン交響曲第3番(英雄)に関するエピソードが有名ですね)。不勉強な私は、大儀としては「フランス革命の輸出」(ヨーロッパ各国の民主化の進展)を目的としており、実際は、ナポレオンの侵略戦争であったくらいの認識しかありませんでした。しかし本書によると、この戦争は、当時の先進工業国であるイギリスの「自由主義グローバリズム」と、農業国で工業的には遅れているフランスの「保護主義」の対立の面があったそうです。その流れのなかで、イギリスの安い工業製品がヨーロッパ大陸流入しないよう、ナポレオンは「大陸封鎖令」を発布しました。このナポレオン戦争の結果は、保護主義に対する自由主義の勝利ということがでます。ここから得られる歴史的教訓とは、「グローバリズムは常に、経済的強者に恩恵をもたらす」ということです。

 

次に第一次世界大戦第二次世界大戦を導くことになってしまった「帝国主義」という名の極端な保護主義について紹介します。1880年代には、イギリスは工業生産額でアメリカに抜かれ、1890年代にはドイツにも抜かれます。結果、イギリスの製造業は斜陽となり、貿易収支も赤字となってしまします。そこで、植民地を独占市場として囲い込み、生産拠点(工場)も植民地に移して生産コストを抑えることで、イギリス経済は息を吹き返します。これが、帝国主義による世界分割の始まりです。その結果、植民地を持つものと持たざるものとの間で起こった争いが第一次世界大戦です。第二次世界大戦についてもその構造は変わらず、イギリス、フランス、アメリカ等の強大国はブロック経済(極端な保護主義)をつくりあげ、それぞれのブロック間の貿易を停止してしまいます。その結果、植民地をもたない日本、ドイツ、イタリアは経済的に追い詰められ、第二次世界大戦への道を進む結果となってしまします。ちなみに現在話題となっているTPPですが、このブロック経済と何が違うのか疑問でしたが、著者によると、極端さの程度が違うだけで、発想自体は同じものとのことです。

 

それから著者についてですが、駿台予備校等で、世界史を担当している方で、iPadを用いて映像を駆使したストーリー仕立ての講義は、「歴史の流れ」がわかると好評だとのことです。その経験が生かされているせいか、本書もとても読みやすく、スッと頭に入ってきます。自分が大学受験をしたときに、こんな先生に教わってみたかったなと思います(笑)。

 

最後に、この本の白眉の部分を紹介します。

「天動説」と「地動説」という考え方がありますが、実は理論的には、天動説も地動説も論証可能とのことです。ただ、天動説のほうが、説明が複雑になるだけ。そこでガリレオ・ガリレイ天体望遠鏡を作って天体観測を行った結果、地動説の正しさを確信したそうです。

「TPP参加は正しいか、誤りか。」

「消費税は正しいか、誤りか。」

これらの問題については、経済理論上は、どちらも論証可能であり、「理論」の枠内で議論を重ねても不毛な結果しか招かない。そこで、私たちは経験(歴史)を通じてのみ、何が正しいのか判断することができるのだ、と著者は主張します。実際、私たちは、テレビ等でこれらの問題について議論されているのを見ても、それぞれの発言者の意見が平行線をたどっていて、結局何が正しいのかわからないという体験をしばしばします。そういった時には、一度歴史に立ち戻ること(観察すること)は大事だろうと思います。自然科学分野のこととは違って、経済等の問題は実験ができないため、この立場は有意義なものであろうと思います。これこそ、本を読むことが好きな方にとっては、任せてくれ!という立場なのではないでしょうか。

 

なお、本書は、2013年第1刷発行、2017年第13刷発行となっており、特に改定されたとは書かれていませんが、2016年の情報も盛り込まれており、随時更新されているようです。