飼い主さんの乱読日記

趣味、勉強のために読んだ本の感想とも言えないものを書き連ねています

『国際金融入門[新盤]』

『国際金融入門[新盤]』

岩田規久男 岩波新書

 

『金融入門』に引き続き、岩田さんの『国際金融入門』を読んでみました。書きっぷりに関しては、『金融入門』と同じく、簡潔な記述で、かつ大学の授業を受けているような印象を受けます。しかし、無味乾燥かというとそんなこともなく、素っ気ないけれども必要なことはきちんと伝えてくれています。書かれているレベルについては、私では正確な判断ができませんが、はしがきで著者が述べているように、「国際金融の専門家を目指すのでない限り、国際金融の仕組みについては、本書程度の原理的なことを理解しておけば十分」であるようです。また、それをふまえて、「国際金融の[理論]、[仕組み・制度]、[歴史]をバランスよく組み合わせたつもり」と言っているように、どこかの分野に偏った記述ではなかったと思います。

 

ここから、私の感想主体に書かせていただきます。私は基本的に、通勤時にこの本を読んでいたのですが、その読み方ですと、[仕組み・制度]、[歴史]部分は理解できるのですが、[理論]に関しては一度読んだだけでは、理解しきれないところも多々ありました。この本のようにコンパクトにまとめられた本では、1つの文章ごとに意味が凝縮されているため、そこをきちんと理解するためには、腰を据えて読まないといけないのかなあと思います。ノートをとりながら読むくらいのスタンスが丁度いいのかもしれません。(もちろん、頭の良い方は別ですよ(笑))

 

次に、この本の中で、特に興味をひかれた部分について書かせていただきます。ヘッジ・ファンドによるポンドの空売りや、ヘッジ・ファンドが引き起こしたアジア通貨危機に関してですが、その仕組みについては、細野真宏さんの『経済のニュースがよくわかる本[世界経済編]』でも書かせていただきましたが、ヘッジ・ファンド悪玉論的な言説が主流であると思います。自分が儲けるために、他国の経済をズタボロにしてしまうってどうなの?っていうのが、おそらく普通の人の感覚だと思います。それに対して著者は、上記のイギリスやアジア諸国は経済の論理を無視した制度を無理して維持しようとしていたのであり(経済の論理に対する対抗勢力)、ヘッジ・ファンドはそういった無理はいつまでも続くはずがないと判断し、経済のファンダメンタルズに基づいた投機を行うことにより、そういった抵抗勢力に打ち勝ったと評価しています。冷徹な「経済原理至上主義者」であるような主張です。個人的には賛同しかねるという気もしますが、現実の経済の現場はそのようにシビアなものなのかもしれません。いつその攻撃対象が日本になるかわからないことを考えると、未来の日本への箴言として受け止める必要があるのかもしれません。

 

 

「経済は世界史から学べ」

「経済は世界史から学べ」

茂木誠 ダイヤモンド社

 

本書は、①現在話題になっている経済の問題(例えば、TTPやデフレなど)について、歴史から学ぼう!ないしは、②世界史(日本史も含む)にでてくる経済関連の事柄をまとめて説明し、歴史の理解を深める、ということを目的とした本だと思います。「はじめに」に書かれているように、「本書は、経済をより深く理解するために、歴史、つまり「物事の成り立ちから学ぶ」というアプローチをとったものです。」とも言うことができます。ただ、軽く読み通せる本ですので、この本で興味をもった事柄について、さらに次の本を読んでいくための出発点として使えれば、有意義なのではないでしょうか。

 

以下、いくつか具体例をあげながら、本書の紹介をしていきます。

 

世界史をやっていた方はご存知のナポレオンと彼が起こした戦争に関してです(ベートーヴェン交響曲第3番(英雄)に関するエピソードが有名ですね)。不勉強な私は、大儀としては「フランス革命の輸出」(ヨーロッパ各国の民主化の進展)を目的としており、実際は、ナポレオンの侵略戦争であったくらいの認識しかありませんでした。しかし本書によると、この戦争は、当時の先進工業国であるイギリスの「自由主義グローバリズム」と、農業国で工業的には遅れているフランスの「保護主義」の対立の面があったそうです。その流れのなかで、イギリスの安い工業製品がヨーロッパ大陸流入しないよう、ナポレオンは「大陸封鎖令」を発布しました。このナポレオン戦争の結果は、保護主義に対する自由主義の勝利ということがでます。ここから得られる歴史的教訓とは、「グローバリズムは常に、経済的強者に恩恵をもたらす」ということです。

 

次に第一次世界大戦第二次世界大戦を導くことになってしまった「帝国主義」という名の極端な保護主義について紹介します。1880年代には、イギリスは工業生産額でアメリカに抜かれ、1890年代にはドイツにも抜かれます。結果、イギリスの製造業は斜陽となり、貿易収支も赤字となってしまします。そこで、植民地を独占市場として囲い込み、生産拠点(工場)も植民地に移して生産コストを抑えることで、イギリス経済は息を吹き返します。これが、帝国主義による世界分割の始まりです。その結果、植民地を持つものと持たざるものとの間で起こった争いが第一次世界大戦です。第二次世界大戦についてもその構造は変わらず、イギリス、フランス、アメリカ等の強大国はブロック経済(極端な保護主義)をつくりあげ、それぞれのブロック間の貿易を停止してしまいます。その結果、植民地をもたない日本、ドイツ、イタリアは経済的に追い詰められ、第二次世界大戦への道を進む結果となってしまします。ちなみに現在話題となっているTPPですが、このブロック経済と何が違うのか疑問でしたが、著者によると、極端さの程度が違うだけで、発想自体は同じものとのことです。

 

それから著者についてですが、駿台予備校等で、世界史を担当している方で、iPadを用いて映像を駆使したストーリー仕立ての講義は、「歴史の流れ」がわかると好評だとのことです。その経験が生かされているせいか、本書もとても読みやすく、スッと頭に入ってきます。自分が大学受験をしたときに、こんな先生に教わってみたかったなと思います(笑)。

 

最後に、この本の白眉の部分を紹介します。

「天動説」と「地動説」という考え方がありますが、実は理論的には、天動説も地動説も論証可能とのことです。ただ、天動説のほうが、説明が複雑になるだけ。そこでガリレオ・ガリレイ天体望遠鏡を作って天体観測を行った結果、地動説の正しさを確信したそうです。

「TPP参加は正しいか、誤りか。」

「消費税は正しいか、誤りか。」

これらの問題については、経済理論上は、どちらも論証可能であり、「理論」の枠内で議論を重ねても不毛な結果しか招かない。そこで、私たちは経験(歴史)を通じてのみ、何が正しいのか判断することができるのだ、と著者は主張します。実際、私たちは、テレビ等でこれらの問題について議論されているのを見ても、それぞれの発言者の意見が平行線をたどっていて、結局何が正しいのかわからないという体験をしばしばします。そういった時には、一度歴史に立ち戻ること(観察すること)は大事だろうと思います。自然科学分野のこととは違って、経済等の問題は実験ができないため、この立場は有意義なものであろうと思います。これこそ、本を読むことが好きな方にとっては、任せてくれ!という立場なのではないでしょうか。

 

なお、本書は、2013年第1刷発行、2017年第13刷発行となっており、特に改定されたとは書かれていませんが、2016年の情報も盛り込まれており、随時更新されているようです。

 

「金融入門[新盤]」

「金融入門[新盤]」

岩田規久男 岩波新書

 

金融の基礎について学びたいと思い、本書を読んでみました。いい意味でも、悪い意味でも教科書のような本です。しかし、必要なことは簡潔に伝えてくれる、面白みは少ないけれど要点は理解しやすい大学の授業…、そんな感じの本です。金融の仕組みと用語の説明が中心の内容となっていて、理論的なことについては軽くふれる程度となっています。また、この本では、国内金融の説明が中心となっており、為替等に関する海外部門を含めた内容については、同じ著者による、「国際金融入門[新盤]」を参照することとなります。

 

以上のことから、想定する読者層としては、金融の初心者で、コンパクトな本であることから、多忙で金融についての知識を短時間で得たいという方に向いているのではないかと思います。

 

著者は、「2013年3月20日日本銀行副総裁に就任。2018年3月19日、日本銀行副総裁を退任。」という学者としてだけではなく、実務にも携わってこられた方です。そのため、本書の中で述べられている日銀に対する批判に関して、後日実務に生かされていたのだろうと思います。ただ、著者の在任期間中、デフレの脱却はできなかったことを考えると、実務で結果をだすということは、なかなか難しいことなのだと思います。また著者の立場としては、規制緩和を重視する自由主義的側面が強い方だと思います。

 

また、著者の立場がよく表れているのは、「第7章.金融ビックバンと金融システムの安定性」の章でしょう。著者は、金融ビックバンにより、金融の自由化が進むことに大きな期待を寄せています。実際、ネット証券会社などができ、証券売買の手数料が自由化されたことにより、メリットを受けている方も多いのではないかと思います。このように、規制が撤廃されることにより、消費者の選択肢が増えることは、我々一般の消費者にとっても望ましいことです。

 

そして、「第9章.金融政策とマクロ経済」では、金融の理論的な面が説明されます。ここではロジカルに金融事象の説明が行われます。(金融・経済事象は、論理的に考えることが必要であることが、ここを読むと実感できます。)そこで感じるのは、細野真宏さん(以前のブログを参照)の説明は本当にわかりやすいなあ、ということ。すべての本があのレベルで説明してもらえたらありがたいのですが、なかなか、それもかないません。我々読者が、細野さんの説明レベルで理解するスキルを身に着けなくてはならないのでしょう。

 

また一方、著者は金融自由化により発生した「資産担保証券」(銀行による貸し付け債権の証券化)等に対して、「銀行の資産変換機能の高度化」と高く評価しています。この「銀行による貸し付け債権の証券化」とは、2008年のサブプライム・ローンの仕組みそのものだと思います。サブプライム・ローンについて説明すると、プライム層(住宅ローンを問題なく返済できる層)の住宅ローンはリスクが低いため銀行が保有していたのだけれども、サブプライム層(ローンが返済されないリスクがある層)の住宅ローンに関しては、証券化を行うことによって、銀行から証券会社へ売却され(その後、機関投資家や一般投資家へ売却)、その証券価格が暴落し、世界同時不況へのキッカケとなってしまします。1999年発行の本書で、ナイーブともとれる自由主義的礼賛を行ったのは、ある意味仕方がなかったのかとも思います。

 

以下、参考までに目次を掲載します。

【目次】

  1. 貨幣と日本の決済システム
  2. 貨幣の貸借と金融
  3. 金融機関と金融仲介
  4. 資金の循環と金融市場
  5. 金利と資産の価格
  6. デリバティブとリスクの移転
  7. 金融ビックバンと金融システムの安定性
  8. 金融と景気と物価
  9. 金融政策とマクロ経済

 

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(銀行・郵貯・生命保険編)」

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(銀行・郵貯・生命保険編)」

細野真宏 小学館

 

細野真宏さんの経済のニュースがよくわかる本を、【日本経済編】、【世界経済編】から、この【銀行・郵貯・生命保険編】を読んできて感じたことは、このシリーズは経済の基本図書と言って過言はないものだということです。このシリーズに共通する「結論だけを教えるのではなく、そこへたどり着く過程を丁寧に説明している」という点が、最大の売りであろうと思います。私がシステム・エンジニアであることも影響してかもしれませんが、スッキリとしたロジック(ストーリーと言っていいかもしれません)で説明されると非常に心地よく感じるんですよね(笑)。受験でもそうですが、結論だけ教えられて、ただそれを暗記するということは無味乾燥で面白みがない作業となってしまします。人間であるなら、物事はただ暗記するのではなく、筋道を理解する過程を伴ったものであってほしいです。(ただ、暗唱から始まる理解というやり方を否定するものではありません。)

 

この本のおすすめポイントを二点あげさせていただきます。

 

一点目は、本のカバーの推薦文にも書いてあることですが、「なぜ、金利が上がると国債の値段が下がるのか」という点が、丁寧に順を追って説明されていることです。他の金融入門書では、事実として書かれていただけで、「そういうものなのかな」と思うしかありませんでした。しかし、この本では、金利が上がると利率が固定された国債を持っていることは、その所有者にとっては、相対的に損な状況であることが説明されており、納得できます。

 

話は脱線しますが、通常、「易しい」とか、「わかりやすい」と標榜する本では、図やイラストが多用されています。しかし、そのイラストなどは理解を助けてくれるわけではなく、なんとなく分かった気にさせてくれるだけのものが多い気がします。ですが、細野さんの本では、イラストがちょっと幼稚で拒否反応を起こす方もいると思いますが、文章だけで説明されるより確実に理解度をあげてくれます。思考能力のシャープな方は、図やイラストの使い方もうまいのかもしれません。(ちなみにIT業界では、図を使ってうまく説明できない人は、残念な人であるとの烙印をおされてしまいます。怖いですね。)

 

もう一つのポイントは、生命保険についての説明です。よくわからずに生命保険に加入してしまっている社会人の方も多いと思いますが(私もそうです)、仕組みから言うと、

  • 死亡保険
  • 生存保険
  • 生死混合保険

の三種類に分類できます。言い方を変えると、これしかないです。これらについての、メリット/デメリットについての説明を読むと複雑そうに思える生命保険も非常にシンプルなものであることがわかります。読者は、この原理・原則を踏まえたうえで、自分に必要な保険を選択していくことが可能となります。それは、まだ生命保険に加入していない方だけではなく、すでに生命保険に加入してしまっている方でも、ライフ・スタイルが多様化している現在の状況を勘案すると、保険の見直しに役立つのではないでしょうか?(要は、無駄なことはやめましょう。私も含めて。(笑))

 

最後に、この本が書かれた頃には、【日本の財政問題アメリカ・ヨーロッパ・中国経済編】を執筆する構想があったようですが、2018年11月現在、出版されていません。できたら、これも読んでみたかったなと痛烈に思います。

 

このシリーズ全体を読んだ感想としては、「物事を理解するということはどういうことなのか」ということを実例を挙げて説明してもらえたもと思います。今後、新しいことを学ぶ際には、「このように一歩一歩筋道を追って理解すべきである」という宿題をもらったと言えます。本を読むことは、こういうことなのかもしれません。答えをもらうこともあれば、宿題をだされることもあると。

 

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(世界経済編)」

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(世界経済編)」

細野真宏 小学館

 

【日本経済編】に続いての2冊目です。

著者が当初から書きたかったのが、この【世界経済編】の内容で、この本を理解するための準備として【日本経済編】を書いたという言葉に偽りなく、とても素晴らしい内容でした。

 

著者の言いたいことは、大雑把に言えば次の通り。

  1. 現在では、「実物経済」と「マネー経済」の比率が「1:9」となっており、世界のお金の流れの9割以上が「マネー経済」になってしまっている。よって世界で起こっている経済事象を理解するには「マネー経済」を理解することが不可欠である。
  2. 我々は、日本のニュースだけを気にしていたらダメ。世界の経済は本当に深くつながっているので、世界経済のニュースがそのまま僕たちの日常に大きく関係してくる。

 

まずは、マネー経済を理解するため、イギリスをネタに「ヘッジファンドとポンド危機」の章がおかれます。当時、不況でありながらインフレに悩まされていたイギリスがEMS(欧州通貨制度)に参加するため、イギリス経済の実態よりも高いポンドのレートでマルクと関連つけられていました。この状態は長くは維持でいないと判断したヘッジファンドは、ポンドの空売りを行うことでポンドの暴落を引き起こし、中心人物であったジョージ・ソロスは、この間に1200億円もの大金を儲けたといわれています。

 

次に、イギリスの事例を踏まえたうえで、「アジア通貨危機」に関して、主にタイに関して説明されます。90年代後半、アジア諸国はドルペッグ制(ドルとの固定相場)をとっていましたが、アメリカの「強いドル」政策の影響から、各国の実体経済より通貨の価値が高い状態となってしまっていました。そこをヘッジファンドに狙われ、イギリスの場合と同様、空売りを仕掛けられ、結果、変動相場制へ移行せざるを得なくなり、通貨価値が暴落してしまいました。

 

次に、「アジア通貨危機」から派生した「ロシア危機」について説明がなされ、それまで無敵を誇った「ヘッジファンドの危機」が描写されます。これまでの流れでは、デフォルト(債務不履行)が起きそうな国に対してはIMF国際通貨基金)が必ず融資を行いデフォルトの発生を回避していたことに加え、ロシアは核保有国であるため絶対にデフォルトには陥らないと信じられていました。しかし、ロシアへのIMFの融資はヘッジファンドを儲けさせるだけだとの批判から、IMFの融資が行えず、「アジア通貨危機」により、パニックに陥った投資家が「新興市場国」から資金を引き揚げる流れと合わさって、とうとう、ありえないはずのロシアのデフォルトが発生してしまいます。ここに至って、不敗神話のあったヘッジファンド(世界最大のヘッジファンドであるLTCMも)の破綻が起こります。

 

ここでLTCMの破綻をそのままにしておいては、アメリカ発の世界恐慌が発生してしまうため、アメリカの中央銀行は「緊急的で思い切った行動」をとることで、それを抑えます。日本で行われた銀行への「資本注入」や「ゼロ金利政策」もこの流れの中で行われたそうで、世界の経済事情が自分たちの社会へ影響していたそうです。当時はまったくこのような事情が理解できておらず、なんて呑気に過ごしていたろうと鳥肌がたちます。

 

それから「アジア通貨危機」、「ロシア危機」から派生して「ブラジルの危機」が発生します。ドルペッグ制をとっていたブラジル・レアルの通貨切り下げが行われ、その結果、同じくドルペッグ制をとっていたアルゼンチン・ペソの危機が発生し、アルゼンチンのデフォルトが発生してしまいます。このように、世界のどこかで起こった経済危機が、その周辺の国々へ波及してしまいます。

 

これらの流れは、「マネー経済」の働きによるもので、世界のある地域に発生した経済事情が他の国や地域へ大きな影響をあたえてしまうことについて、一歩一歩丁寧に説明がなされています。このような不安定な世界に生きざるをえない我々としては、自分の身を守るためにも経済に関する知識は必要不可欠なものであるのでしょう。(知識があってもどうにもならないことも多そうですが。)現在を知るために、まずはこのシリーズを読み進めることは無駄ではないと思われます。

 

なお、この本を書いた段階では、【日本の財政問題アメリカ・ヨーロッパ・中国経済編】を書くことを想定していたようですが、2018年現在、未だ出版されていないようです。

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(日本経済編)」

「細野真宏の経済のニュースがよくわかる本(日本経済編)」

細野真宏 小学館

 

私はITエンジニアでありますが、仕事で金融系の知識が必要となったことをきっかけに、金融の勉強を始めました。しかし、金融をきちんと理解するには、やはり経済一般の知識が必要であろうと思い、初心者向けに評判のよいこの本を購入してみました。この本は2003年発行のため、それ以降の情報については記載されていませんが、まあ購入したのが○ックオフで安かったし、まずはこの本で基本を学ぼうということでよしとします。

 

この本では、バブル経済から、その崩壊を経て、はまり込んでしまったデフレ状態から脱却するための悪戦苦闘に関するニュースをきちんと理解することを目的としています。2018年現在、デフレからの完全な脱却ができていないことを踏まえると、この本の存在意義はいまだ失われていません。また紀伊国屋経済書の棚にも並んでいたので、本のプロの方々からも十分商品価値があると判断されているのでしょう。

 

この本のすばらしい点としては、普通ニュースや新聞では、「こうだ。」と一言で説明してしまうことについて、一歩一歩段階を追って説明してくれるため、「わかったような、わからないような」で終わらず、読者がきちんと理解できるということでしょう。これは大学受験予備校で数学のカリスマ講師だったという著者の経験がいかんなく発揮されているのでしょう。言い換えると、著者がロジックをしっかり教えてくれるということ。これにより、「なぜそうなるのか?」というところがしっかり理解でき、読者はストンと腹に落ちた感覚を味わうことができます。

 

わかりやすい説明についての具体例としては、私は、バブル経済崩壊後に行われた「貸し渋り」や「貸しはがし」、および銀行への「資金注入」というものがよくわからなかったのですが、この説明がわかりやすい。「BIS規制」というものがあって、これは「国際決済銀行」というところが定めていて、銀行が外国で仕事を行う場合には、自己資本比率が8%以上でなければならないというものです(日本の大手銀行はすべて外国で業務を行っています)。これを求める式は、「自己資本比率自己資本/総資本」で表されます。「自己資本」とは、自身の株発行で得た資本や、保有している株式が値上がりすることによって得た利益などが該当します。また、「総資本」とは、の金融機関から借りたり、預金者から預かったりしたお金、つまり他人から借りたお金を表します。「貸し渋り」や「貸しはがし」が行われた理由ですが、基本的に大きな増減をしない自己資本に対して、他人から借りている資本を表す総資本が増加してしまうことから説明されます。自己資本比率の式を参照すると、ほぼ不変と仮定できる自己資本に対して、分母にあたる総資本が増えてしまうと、自己資本比率が下がってしまい、外国で営業ができなくなってしまいます。そして総資本に含まれるものとしては、リスクを伴う「貸出し」は含まれるのに対して、安全資産である「現金」、および「国債」は含まれないとのことです。そのようなルールである理由は述べられていませんが、このルールがあるのなら、銀行としては「貸出」を行わず、「国債」や「現金」として保有しておくことは、合理的な判断と言えます。

 

また、国が行った資金注入に関しては、国が銀行によって発行された株式を購入することによって行われるため、銀行の自己資本(先の式の分子)を増大させる効果があるため、BIS規制をクリアしながら銀行が企業等へ貸出を行うことを可能とする政策であったことがわかります。当時、私は、銀行業界だけは損害が発生しても損失補填してもらえるなんて不公平じゃないかと思っていたのですが、その考えがいかに稚拙だったのか思い知らされます。

 

また、「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」の違いもわかりました。「ゼロ金利政策」とは、短期金融市場(金融機関同士で、お金を融通しあう市場で、現在では金融機関でお金が必要な場合には、日銀から借りるよりもこちらを利用して資金を調達することが主なようです。)で、お金の貸し借りをする金利が0%となるよう日銀が調整する政策のことです。その際、日銀の目標は金利が0%にするということです。それに対して、「量的緩和政策」とは、日銀が20兆円を市場に投入すると決めたら、たとえ10兆円投入時点で金利が0%になったとしても20兆円まで市場にお金を投入し続けるというものだそうです。言ってみれば、「量的緩和政策」は、「ゼロ金利政策」を過激にしたもの、市場のお金をジャブジャブにすることで、社会でまわるお金を増やしていこうとする(景気をよくする)というもののようです。

 

次に本書の不満点を一つ。短期金融市場で日銀がお金を供給する仕組みが説明されていません。日銀が短期金融市場の当事者となって、直接資金を必要としている金融機関に対してお金を貸し出すのでしょうか?日銀が金融機関に対して貸し出しを行う場合、公定歩合で貸し出すという別の仕組みがありますが、それとの関係はどうなってしまうの?という疑問があります。しかし、これ以外の記述はとてもわかりやすく、おすすめできる本だと思います。

 

最後に、著者についてコメントさせていただきます。著者の細野さんは数学の専門家で、大学在学中から大学受験予備校で数学を教えていた経歴の方だそうです。また、わかりやすい教え方が評判で、自身で数学専門の予備校を主催していたこともあるくらいで(今はやめられたようです)、わかりやすく教えることに関しては、プロフェッショナルな方と言えます。

 

この本はニュースを理解できるようになる本とありますが、私はこのシリーズの本を読み終わった後、経済学の教科書を読んで経済の知識を深めたいと思っています。

 

「金融の基本とカラクリがよ~くわかる本[第3版]」

「金融の基本とカラクリがよ~くわかる本[第3版]」 

久保田博幸 秀和システム

 

仕事でカード業の知識が必要となり、まずは金融に関する基礎知識を得ようと思い読んでみました。内容としては、著者が「はじめに」に書かれているように、学問としての金融を知るための本ではなく、金融機関や金融商品が売買されている場の仕組みに関して基礎的なことを説明したものです。最初から理論的、抽象的な金融論などの教科書を読むより、まずは具体的な仕組みを押さえてから理論的な本を読むほうが、私にはしっくりきます。

 

この本をお勧めする読者は、金融に興味がなかったが仕事で必要になった方、それから投資に興味をもったが本や新聞に書かれていることがわからず、金融の基礎知識を身に着けようという方です。私がまさにそうです(笑)。

 

具体的に内容をみていくと、株式、債券、通貨、為替、日銀、政府などについて、バランスよく、広く浅く説明する形です。説明を行うテーマに関して図や表もつけられていますが、それほど理解を助けてくれるわけではなく、どちらかというと文章を読んで理解していく本といえます。しかし、文章もわかりやすいので特に問題はないと思います。経済・金融系の本はそんなものかもしれません。

 

例えば、外国為替市場についてですが、私はずっと東京やニューヨークには外国為替取引所があるものだと思っていました。ところが、証券取引所のように一か所に集まって取引をして価格を決定するのではないそうです。貿易や国際的な取引活動により発生する国境をまたぐ資金移動を銀行が仲介して行っています。銀行は短資会社という仲介業者を通してだったり、直接相手方の銀行と取引を行います。この取引は、銀行内のディーリング・ルームで電話やコンピュータを使って行われており、この取引と取引をつなぐネットワークをまとめて外国為替市場と呼んでいるそうです。知らないということは怖いことです。

 

ただし、この本を読むには、以下の点に気を付ける必要があります。おそらく、この本は始めから順番に書かれたわけではなく、章ごとにバラバラに書かれたものと思われます。本を読み進むと何の説明もなく新しい単語が使われていたりします。私も日銀の章(前のほうの章です)を読んでいて、いきなり何の説明もなく、「イールド・カーブ」とか「コール・レート」という言葉がでてきた時には、この本は今の自分には難しすぎるのかなと不安になりました。ですが、読み進めると後の章できちんと説明してくれるのでご安心ください。初めて出てくる単語は基本的にはそこで説明するべきとは思いますが、説明しやすい場所はあるわけで、そこで説明するという方針なのでしょう。文字数に制限があるこのような本では、いたしかたがないかと。索引もついていますので、気になった方はそこから説明されている箇所を探して読めば問題ないレベルと思います。

 

それから、金融デリバティブについては、今ひとつわかりづらかったです。デリバティブは複雑な仕組みであるため少ない字数で説明するのは難しいのだと思います。やはり、きちんと理解するためには、デリバティブに特化した本を読む必要があるのだと思います。

 

次に、この著者の紹介です。

証券会社の債権部で債権のディーリング業務に従事してこられた方で、幸田真音さんのベストセラー小説「日本国債」(私は未読です)の登場人物のモデルとなった方らしいです。それから金融関係の本を書くような方は、個人に対して、無批判に投資を進める傾向があるように感じていました。しかし、著者はデリバティブの取引に関して、金融のプロにおけるリスクのヘッジについては評価しているものの、個人投資家が手を出す際にはリスクを覚悟することをアドバイスするなど、信用できる方なのかなと思います。

 

最後に、この本1冊で金融の知識をすべて得ることはできませんが、まず初めの一歩として金融の基礎知識を身に着けるには、ちょうどいい本なのかなと思います。

 

 

参考までに、目次を掲載します。

目次

  1. お金の基礎知識
  2. 日本銀行の役割
  3. 金融機関の役割
  4. 政府の役割
  5. 市場とは何か
  6. 外国為替の仕組み
  7. 株の仕組み
  8. 債権の仕組み
  9. 短期金融市場の役割
  10. 金融デリバティブの基礎知識
  11. 外市場への投資